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薬草園歳時記(5)桑の実と楊梅(ヤマモモ) 2021年7月


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薬草園のマグワの実(薬草園提供)

 桑の実は、桑いちごとも呼ぶ。桑はクワ科の落葉高木で、実は、初め赤く、やがて7~8月に紫黒色に変じて熟す。多汁で甘い。
 日本ではクワといえばヤマグワを指す。薬草園にある桑はマグワで、薬用ではクワといえばマグワを指す。ヤマグワはマグワの代用品という位置付けである。

桑の実の紅しづかなる高嶺かな  飯田龍太

 桑の実は、クワ科クワ属の落葉樹の実の総称である。かつて養蚕が日本では盛んであった。各地に桑畑の名残がある。接木で繁殖させるため各地で独自の品種が育成され、様々な品種が生まれた。自生のヤマグワもある。英語ではマルベリー(Mulberry)、フランス語ではミュール(Mure)という。
 桑の実は成りはじめは白い。赤くなり、熟すと赤黒くなる。黒くなるまでは酸味が強い。食べるのは黒いものがいい。果実は小粒が集まり1個の果実となる。軸は先まで中心を貫く。桑の実はそのまま食べても美味しい。軸を引き抜くように食べる。ジャムは保存性が高い。桑の実自体にペクチンが少ないので、砂糖を加えペクチンを加えるといい。
 熟した桑の実は強い色と香りで鳥を誘う。この果肉にくるまれた種子は硬い。このような種子の散布を「被食散布」あるいは「周食散布」と呼ぶ。桑の実が一度に熟さず、少しずつ色を変えるのは、鳥によって少しずつ時間的にも空間的にも広い範囲に運ばれるという仕組みである。
 桑の実には強い抗酸化作用がある。ポリフェノールが多く、ビタミンEも多い。可食部100gあたりの成分は、米国農務省国立栄養データベースに記載されている生のマルベリーの場合(五訂日本食品標準成分表には記載がない)、ビタミンEとCとが、それぞれ0.87mgと36.4mgである。また、カリウムが194mgある。
 マグワの根からコルク層(芯)を取り除いた白い皮をソウハクヒ(桑白皮)と呼ぶ。日本薬局方に収載されている生薬である。漢方では鎮咳、去痰のために用い、血糖降下の効果もある。
 中国では多少未熟で紅紫色の果実を桑椹(そうじん)という。焼酎(35度)1リットルに桑椹300gを漬け、冷暗所に3か月ほど保存して桑椹酒を作る。低血圧、冷え症、不眠症などの滋養目的に、就寝前に盃1、2杯飲む。果実と根皮を35度の焼酎に漬けたものも飲まれる。
 台湾には実を食べるための種類の桑があり、大きな実が収穫される。道路沿いの飲料店では「桑椹汁」が買える。桑の実のジャムも売っている。
 韓国ではオディ(??)という。桑の実のジュースは缶入りのものもあり、カフェのメニューにも??がある。

桑の実のジュースに続きマッコリを  和夫

やまもも(雌)の実(薬草園提供)

ヤマモモの名札とヤマモモの花(雄)(薬草園提供)

 楊梅(やまもも)は、山桃とも書き、また、やまうめとも呼ぶ。楊梅はヤマモモ科の常緑高木で、暖地の山地に自生し、雌雄異株である。樹形が良いので、公園や庭に植えられることが多い。4月ごろ、数珠つなぎに小さなピンクで、花弁4枚の目立たない花をつける。実は夏に赤く熟して、直径1~2センチの球形となる。
 甘酸っぱい味があり、独特の樹脂の香りがある。雌株につく果実は6月頃に紅色から暗赤色に熟し、食べられる。表面に粒状突起を密生する。この突起には光沢があり、小粒の赤いビーズを一面に並べた姿になる。
 静岡県立大学では、薬草園の他にも、草薙キャンパス入り口のロータリーにもあり、小さい実が階段に落ちている。普通は食べない小さい実でも拾って食べてみると、やまもも独特の味がある。
 ヤマモモの原産地は、中国大陸や日本で、暖地に生育し、暑さに強い。日本では関東以南の低地や山地に自生している。本州南部以南では、海岸や低山の乾燥した尾根など、痩せ地で森林を構成している場合がある。高知県や徳島県に多く、痩せ地には重要な樹種である。中国では江蘇省、浙江省が産地で、とりわけ寧波市に属する余姚市や慈渓市、あるいは温州市甌海区が古くから知られた産地である。千年に及ぶとされている古木が多く残っている。福建省、広東省、広西チワン族自治区、台湾などもある。
 浙江省の「丁嶴梅」、広東省の「烏酥楊梅」が良質で知られる。ジャム、缶詰、砂糖漬け、リキュール等に加工される。中国では白酒に砂糖を加え、ヤマモモの果実を漬け込んだリキュールの「楊梅酒」が広く作られている。樹皮は楊梅皮と呼ばれる生薬で、タンニンに富み、止瀉作用がある。消炎作用もあり、筋肉痛や腰痛用の膏薬に配合されることがある。
 果実の色素はアントシアンで、服に着くと落ちにくい。ジャムを作るとき、クエン酸等を入れて酸性にすると、赤色がきれいに長く保たれる。アントシアンを含む果実が酸っぱいのには意味がある。
 静岡県では、伊豆高原地区が実のなる最北端と言われている。伊豆急行の各駅の自動販売機には「やまももドリンク」がある。伊東市の蓮着寺にあるヤマモモは「蓮着寺のヤマモモ」の名称で国の天然記念物となっている。本堂に向かって右手にあるヤマモモで、樹高15m、幹囲7.2m、枝は東西22m南北18mに広がっており、日本最大のヤマモモとされている。
 高知県ではシイラ漬漁業に使うシイラ漬の下に、葉が付いたヤマモモの枝を垂らしておいて、隠れようとする小魚を誘き寄せ、小魚を目当てに集まってくるシイラを巻き網で捕るという漁法がある。高知県の県の花、徳島県の県の木、知多市、西都市、那珂川市、下松市の市の木に指定されている。徳島や高知のヤマモモは果実として知られており、甘ずっぱい味は果実飲料に適している。徳島県を代表する農産物とされているが、旬の時期は極めて短く、軟らかくて痛みやすいので地元だけで消費される。
 ヤマモモの枝は折れやすい。冬の寒い時期の霜や寒風に弱く、葉が傷んでしまうこともある。植物を管理する方たちには苦労がある。また、登って実を食べるときにも注意が必要である。

楊梅の落果鎮守の土を染む  右城暮石
楊梅の香りと種を吹き飛ばす  和夫


 このエッセイについて、薬学部附属薬草園の専門員、山本羊一さんに多くの貴重なご意見をいただいた。記して謝意を表する。


尾池 和夫


薬学部の薬草園サイトはこちらからご覧ください。
https://w3pharm.u-shizuoka-ken.ac.jp/~yakusou/Botany_home.htm

キャンパスの植物は、食品栄養科学部の下記のサイトでもお楽しみいただけます。
https://dfns.u-shizuoka-ken.ac.jp/four_seasons/

下記は、大学外のサイトです。
静岡新聞「まんが静岡のDNA」の記事でも薬草園を紹介しました。
https://www.at-s.com/news/article/featured/culture_life/kenritsudai_column/742410.html?lbl=849

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